ハーネスながの 2003年5月 第14号
発行:長野県ハーネスの会 会長 原 哲夫
〒390-0304 松本市大村492-3 TEL・FAX(0263)46-9611
第14号目次
《総会》 『2003年度総会と研修会開催のご案内』
《年会費》 『2003年度会費納入のお願い』
《役員改選》 『運営委員に立候補して下さい』
《ハーネス基金》 『2002年度の健康管理費支援』
《使用者実態調査》 『県内の盲導犬使用の実態わかる』
《コメンタリー 6》 『補助犬法施行への期待と課題』
《盲導犬ミニ知識 2》 『盲導犬の歴史』(日本編)
《ユーザー体験記》 『私の体験』
《ケン太》 『発足1年半をふり返って』
《応援団》 『子どもたちの取り組みに感激』
《引退犬飼育》 『2頭目の引退犬を迎えて』
《レクイエム》 『引退犬4頭逝く』
《引退犬飼育 2》 『ユールを看取って』
《事務局》 『募金とご寄付の報告』
《編集後記》
《総会》
『2003年度総会と研修会開催のご案内』
長野県ハーネスの会運営委員会
2003年(平成15年)度総会と研修会を下記のように開催します。今回は松本の名所、県の森公園内の文化会館の一教室で行います。総会後、昼食のお弁当をいただきながら参加者で懇親会を計画しております。 ご参加をお待ちしております。
(記)
日時 2003年5月31日(土)11:00~14:30
会場 松本市 県の森文化会館 1の5教室
内容 【総会の部】
(1)2002年度の活動と会計の報告およびそれらの承認
(2)2003年度の取り組みの重点の説明と一般会計予算案、ハーネス基金予算案の審議。
(3)役員改選
【昼食と懇親の部】
昼食弁当を食べながらの懇親会(天候がよければ屋外の芝生上で)
【研修の部】
「盲導犬使用実態調査」の結果報告
日程 受付 11:00~11:20
総会 11:30~12:10
懇親昼食会 12:20~13:20
研修報告会 13:30~14:20
解散 14:30
参加費 1000円(昼食弁当と飲み物代金)
参加申込み ℡ファックス (0263)46-9611 または (0263)46-5378
e-mail: cyn02200@nifty.ne.jp
申込み締切 5月29日(木)
《年会費》
『2003年度会費納入のお願い』
事務局
2003年度の会費2000円の納入をお願いいたします。同封しました郵便振替用紙をご利用下さい。振り込み手数料は不要です。
会費2000円の内、1000円は一般会計に入れて会運営費として使わせていただきます。そして、他の1000円はハーネス基金へ繰り入れて盲導犬と引退犬の健康管理と医療費の一部として使わせていただきます。本年度も会員として長野県ハーネスの会を支えていただきますようお願い申しあげます。
会費の納入はできるだけ6月中にお願いいたします。
《役員改選》
『運営委員に立候補して下さい』
本年度の総会では、向こう2年間の会運営を担う役員(運営委員)を改選します。
定数は10名。本会の会員で年6~7回の役員会と年2回の行事に出席できる方ならどなたでも立候補の資格はあります。
受付は5月29日(木)まで行っています。立候補していただける方は、事務局(0263-46-9611)までご連絡下さい。
《ハーネス基金》
『2002年度の健康管理費支援行われる』
ハーネス基金による2002年度の健康管理助成費は、去る3月14日の運営委員会で次のように決まりました。
対象は2002年4月1日から2003年3月31日までの間に盲導犬として使用したか、または引退犬として飼育された犬の使用者と飼育者です。助成額は一律1頭につき5000円です。
この間に本会に登録されていた盲導犬使用者は25名、引退犬飼育者は4名(6頭)でした。
また、疾病治療のために8万円以上の高額医療費を支払った場合への支援である「見舞金2万円」の対象事例は2件ありました。
いずれも3月31日までに事務局より使用者と飼育者の口座に送金させていただきました。
ハーネス基金は会員の皆さんからの年会費の一部(1000円)と会費以外の寄付金、店頭募金をもって運営しています。本会のように一般県民による盲導犬と引退犬の医療費や健康管理費の一部を助成する活動に取り組んでいる組織は全国でも例がありません。
会員の皆様のご支援に厚く感謝申し上げます。
《使用者実態調査》
『県内の盲導犬使用の実態わかる』
本会では昨年8月に盲導犬を使用している会員25名に、「盲導犬使用実態調査」を郵送によるアンケート回答方式で実施しました。これは、長野県ハーネスの会が発足して5年目を迎え、これからの取り組みや活動を進める上で、盲導犬使用の実態を客観的で多面的につかんでおく必要があると考えたからです。
回答は23名(回収率98.0%)から寄せられました。県内の盲導犬使用者の総数は26名ですから回答が23名から得られたことで県内の盲導犬使用の実態をかなり正確に把握できたと考えています。
調査結果からは、使用者自身、盲導犬そのもの、盲導犬を使用しての使用者の評価、社会の受け入れ状況、盲導犬使用に要する費用、等についての実態が明らかになりました。
この結果につきましては、5月31日(土)の総会と研修会で報告する他に、冊子として使用者の居住する自治体担当者と盲導犬育成施設へも送り、今後の施策の参考にしていただく予定です。
《コメンタリー 6》
『補助犬法施行への期待と課題』
日本ライトハウス行動訓練所
所長代理 菅 庸起
昨年の5月に身体障害者補助犬法が成立し、10月より施行され盲導犬のユーザーも安心して国や自治体の運営する施設や公共交通機関に盲導犬を同伴して利用できるようになった。本年の10月からは不特定かつ多数の人が利用する一般の飲食店や宿泊施設なども盲導犬を伴って利用できるようになる。
現在、全国9施設の盲導犬育成施設から卒業し、実働している盲導犬は2002年3月31日時点で895頭。盲導犬は道路交通法で視覚障害者の歩行補助具の一つとの位置付けもあり、補助犬法の施行以前から行政の指導や通達により各種施設や飲食店、公共交通機関の利用が可能であった。しかし、それはあくまで受け入れる施設やお店側の理解と協力のもとに成り立っていたものであり、盲導犬を同伴してでは入店拒否や利用拒否を受けることも珍しくはなかった。これまで盲導犬ユーザーは、初めて訪れる飲食店で、『盲導犬同伴可』のステッカーを出入り口に表示していないお店などでは入店の際に「入店拒否を受けるのではないだろうか」という不安を抱きながらドアを開くのであったが、これからはそのような心配もなく安心して訪れることが出来るようになるであろうと期待している。
ただ、身体障害者補助犬法が施行された現時点でも補助犬を同伴して利用できるのかどうかが定かでないところがある。それは、医療機関。総合病院や個人の医院である。例えば国立病院の内科に盲導犬のユーザーが受診した際、盲導犬を伴ってどこまで病院内に入れるのであろうか。診察室までか、待合室までか、やはり盲導犬といえども犬は屋外で待たせなければならないのか・・・これまで盲導犬はその医療施設のそれぞれの判断により対応はまちまちであった。数少ないケースではあるが、人工透析を受けている盲導犬ユーザーの中には透析中の自分のベッドの下に犬を待機させることを認めてくれている病院もある。この病院は事前に盲導犬訓練士を招いて盲導犬について勉強会を開き、その病院を利用している外来、入院患者に対してアンケート調査を実施し、もちろんその犬に対しての衛生面での配慮も行った上で受け入れている。これとは正反対で頑として一歩たりとも病院内に入れてくれない医療機関もたくさんある。
さて、この10月からはどうなのであろうか?補助犬法が施行されてもやはり医療機関は衛生面の配慮から他の施設とは一線をひき、補助犬を伴っての診察室までの入室は難しいのであろうか。「衛生上の問題」を理由に利用を拒否されるのであるならば、その問題とは具体的にどういう問題なのか?健康でしっかり世話をなされている犬は不潔でもなく、常識的な接し方をしていれば、人に病気を移すこともない。問題はないと思うのであるが、医療機関への受け入れはそれぞれの機関の判断にゆだねられているようである。ただ使用者や育成施設は誰からも安心して、当たり前のように認められる犬の管理と質の高い犬の育成を肝に銘じ、社会に対するアピールを地道に行っていくことで道は開けていくのではないだろうか。
《盲導犬ミニ知識 2》
『盲導犬の歴史』(日本編)
日本に初めて盲導犬が紹介されたのは1938年のことでした。米国の視覚障害の青年が旅行中に盲導犬を伴って日本に立ち寄りました。この時に、日本で初めて「盲導犬」の存在が知られる機会となった訳です。
その後1939年には、4人の実業家が1頭ずつ訓練された盲導犬をドイツから輸入。これを陸軍に献納して失明軍人に贈ったという記録があります。
そして1957年、現アイメイト協会理事長・塩屋賢一氏が育てた「チャンピー」が、国産として初めての盲導犬となり、関西のある盲学校の教師に与えられました。
《ユーザー体験記》
『私の体験』
長野市 加藤 久美
私が盲導犬を使用するようになって、もう13年余りが過ぎました。現在は2頭目の盲導犬ルクリアと一緒に生活しています。主婦として毎日買い物に出かけられるのも、一人の母として子供の学校の参観日や行事に出かけたり具合の悪い子供をつれて病院にいけるのも、3歳の娘の手を引いて安心して歩けるのもルクリアのおかげです。
盲導犬を使用することで安全にスピーディーに歩くことができるので、一人で外出する機会が増え、私の行動範囲はぐっと広がりました。しかし、逆に盲導犬を使っているために行動が制限されてしまうことも経験してきました。スーパーやレストラン・喫茶店・ホテル・温泉施設などでの入店拒否、タクシーの乗車拒否などです。私が最初に盲導犬を持った13年前はまだまだ盲導犬への理解も進んでおらず、こうした入店拒否や乗車拒否は頻繁に経験しました。現在はマスコミでも盲導犬の話題が取り上げられることが多くなり、13年前とは比べものにならないほど理解も進んで、入店拒否や乗車拒否にあうことはあまりなくなりました。ところが、今年の初めのこと、私は思いがけないところで入室を断られました。今回はその時のことを書いてみたいと思います。
今年の1月のこと、私は友人から親子で参加できるサークルに誘われました。下の娘がまだ2歳で幼稚園に入園するまでにはまだ1年以上あったのでそれもいいかなと思い、さっそく見学させていただくことにしました。友人と一緒に子供をつれ、サークルの会場になっている長野市が管理している施設に向かいました。サークルの主催者の方には友人から私が盲導犬の使用者であることを伝えていただいており、当日も私たちを快く迎えてくださいました。ところが、私がルクリアの足をきれいに拭いて部屋に入ろうとしたところ、その主催者の方から「この建物の事務所の方に犬は入れないようにと言われたんです。」と告げられました。私も友人もびっくりでした。以前に上の娘のピアノの発表会で同じ建物にきたときはホールに入るのに何も言われませんでしたし、その部屋は土足ではありませんでしたが、盲導犬と一緒に入ってはいけないような場所ではないと思ったからです。しかも、そこは長野市の管理する建物であり、非常に公共性の高い場所でした。部屋に入れてはいけない理由もはっきりしなかったので、私はその主催者の方と一緒に事務所に行き、直接お話しして交渉しました。部屋に入れてはいけない理由は、その部屋が託児やサークルなどで小さい子供が使う場所だからということでした。具体的にはアレルギーを持った子供がいた場合に責任がとれないということでした。確かに犬毛のアレルギーはあります。だからだめだと言われてしまうと、私たちはどこへも行けなくなってしまいます。私も小さい子供を持つ身であり、そういう可能性がまったくないとは言えないことは十分承知していることを話し、それを防ぐためにブラッシングなどの手入れをし、毛が落ちないように洋服を着せていること、入室に際しては足を拭いていること、敷物を持参してその上で待たせること、退室時にはガムテープなどを使って掃除をしていることを説明し、スーパーやレストラン・ホテルはもちろん小児科でも問題なく受け入れて頂いていることもお話しました。また、訓練された犬で子供に危害を加えるようなことは絶対にないけれど、小さい子供が集まる場所なので、部屋の外に待たせている間に子供達が触ってしまうこともあり心配なので、私がきちんと管理できるようにそばに置いておきたいということもお話しました。
対応された事務所の方はその場で上司の方に電話して相談されましたが、上司の方の考え方もまったく同じで、その部屋に限っては犬を入れるわけにはいかないということでした。しばらく話し合いをしたのですが結局平行線をたどり、上司の方と直接お話させて下さいとお願いもしたのですが、それはかなえられませんでした。そうするうちに事務所の方が「本来なら託児だけに使う部屋を、小さい子供のサークルだからということでこちらの配慮でお貸ししているんです。そこまで言われるのなら、別の土足の部屋でやって下さい。」とかなり感情的に言われました。これ以上やっているとサークルの皆さんに迷惑をかけてしまう、そう感じた私は今回はこれ以上言うのはやめようと思いました。
これは私一人の問題ではありません。ルクリアを部屋の外でステイ(伏せて待たせること)させて、私と子供けが入室することはもちろん可能です。でも、ここで私が犬を外に待たせてしまったら、もしも次に誰かが私と同じように盲導犬同伴でここに来た時、「前の人は外で待たせたんだから・・・」といわれてしまうでしょう。私は、ルクリアと一緒に入れないのなら、見学は止めて帰ろうと考えました。帰ろうとした私に事務所の方は「ここまで来てもらって帰って下さいとは言えませんから、今日だけ例外的に入室を認めます。ただ、小さい子供が使う部屋だということを十分心得ておいてください。」と厳しい口調で言われました。せっかく友人が誘ってくれたサークルですし、主催者の方も親身になって私と一緒に交渉して下さいました。「例外的に」という言葉にはちょっとひっかかりましたが、その日は見学させていただくことにしました。
サークル終了後、主催者の方とお話しし、私の気持ちを伝えて、せっかく快く迎えていただいたのに本当に申し訳ないと思うけれど、私一人の問題ではないので盲導犬の入室が認められなければ私はサークルには参加できないと伝えました。
数日後、サークルの主催者の方から電話を頂きました。公共の施設での入室拒否でもあり、その方としても納得がいかないということで、その後も事務所の方とかなり交渉をしていただいたようでした。しかし、結果は同じだったということでした。私はサークルには参加できないとお話しし、今回は断念しました。ただ、どうしても納得がいかず、県の障害福祉課に連絡をしました。その建物は長野市が管理していることから、この件は長野市の障害福祉課の担当者が直接話をし解決するということになりました。「しばらく時間がかかるので、少し時間を下さい。こちらからまたご連絡します。」という電話を頂いたのが2月の下旬頃だったでしょうか。その後年度も代わり、もしかしたら担当者も代わったのかもしれません。現在も連絡はないままです。長野市の障害福祉課に電話してみようかとも思いましたが、娘も三歳になり、サークルに入ろうという気持ちも薄らいでしまって、結局そのままになっています。
この10月から補助犬法が施行され、公共施設への盲導犬の立ち入りが法的に認められました。そうなった今、今回書いた施設でも盲導犬の入室は認められるはずです。しかし、法律が制定されれば全て解決する問題でしょうか? 私はあの時事務所にいた担当者がもう少し盲導犬に理解ある人だったら、きっと問題なく入れたのではないかと思います。法律で認められているから・・・というだけでは、こういった問題の解決にはつながらないような気がしています。やはり、盲導犬が私たちの眼であり、ペットとは違う働く犬であることを理解してもらわなければならないと思います。今回はサークルへの参加を断念してしまった私ですが、これからもルクリアと共にいろんなところに出向いて、社会の人に理解してもらえるように働きかけていきたいと思っています。
そして、もう一つ大切なことは、私達盲導犬使用者自身のマナーの向上だと思っています。今回のようなアレルギーの問題は常に考えておかなければなりません。そのためにも、犬の手入れやコートの着用など、衛生面では十分に気をつけたいと思います。そして基本的なことではありますが犬のコントロールを確実に行って、社会に受け入れられる盲導犬使用者でありたいと思います。補助犬法の施行に当たって、自分自身のマナーを改めて見直し、背筋を正す思いです。
《ケン犬》
『発足1年半をふり返って』
コート縫製グループ「ケン犬」代表 清水 純子
お陰様で「ケン犬」が発足し一年半が過ぎました。ユーザーの皆さんから様々な注文をいただき、「次はどんな注文がくるだろうか」と楽しみながら活動してきました。
では、その一年の活動を振り返り、気付いた事をひとつ。それは、「自分の好きな、空いた時間に活動できる」と言う利点を生かし、通信制のような形をとっているため、どうしてもお互いの状況が把握しにくいという事です。そのため、せっかく時間があるのに注文がなかったり、逆に、注文はあるのに忙しい時期にぶつかってしまい活動できなかったり。
そこで、今後はコートの注文の有無にかかわらず、メンバーそれぞれが、一年を通して少しずつでも活動していけるような態勢作りをしていきたいと思います。コート作りはもちろんの事、裁縫を通じてできるボランティアであれば積極的に取り組んで、より充実した「ケン犬」を目指していきたいと思います。
会員の皆さんも何か良い案がありましたら、是非、ご意見をお寄せ下さい。次回には、さらにパワーアップした「ケン犬」をご報告できるよう頑張っていきたいと思います。
清水純子
TEL 0265-23-0080
e-mail jakkiy@poplar.ocn.ne.jp
《応援団》
『子どもたちの取り組みに感激』
岡谷市 北沢 とも江飯田市立座光寺小学校の5年生が集めてくれたハーネス基金の募金と子どもたちの取り組みについてご報告します。
昨年6月に、飯田市の座光寺小学校の5年生のクラスへ盲導犬の話をしに行きました。その時の縁で、座光寺小学校の5年生達が、ハーネス基金への募金を考えてくれました。 学校の田んぼを使って、自分達が育てた黒米や赤米を売った収益を、ハーネス基金に当てることに決めました。そして、今年1月25、26日の両日に、たくさんの人達に来てもらえるように、チャリティーイベントを開催することにしました。このチャリティーには、5年生は長野県ハーネスの会への募金、6年生はユネスコへの募金を目標に、自分達で一生懸命練習した歌や楽器の演奏、お芝居や落語、手話による歌の披露などをして、会場の中で募金箱を回し、募金を集めたのです。26日には、私もゼーダーと、飯田市に住むハーネスの会会員の清水純子さんと一緒に、会場である麻績の館へ伺いました。
子供達が練習を重ねてきた出し物は、どれも質が高く、会場を埋め尽くした聴衆を飽きさせない内容でした。また、手話によるコーラスが始まると、会場内の人も皆、手話を使って歌に参加しました。私も清水さんに教わりながら、手話を体験しました。
ハーネス基金の募金箱の贈呈式があり、そのあと挨拶を求められましたが、感動しすぎて上手にお礼が述べられませんでしたので、改めてここで気持ちを述べさせていただきたいと思います。
一番うれしかったことは、子供達がただ募金を集めるのではなく、自分達でできることを一生懸命考えて、その労働に対してお金を集めてくれたことです。それも、決して気張らずに、自分達も楽しみながら、人を楽しませることのできるプランを立て、実行してくれることに感動したのです。私は、軽い気持ちで子供達に募金箱を預けたことを反省していたのですが、子供達の方では、盲導犬に対する、自分達ができる応援という風に考えてくれていて、喜んで募金を集めてくれていたことに感謝しています。子供達の純粋な気持ちに、救われる思いもしました。
今回のことは、私自身が募金という名でのお金の作り方、その生かし方について、深く考えさせられる出来事となりました。
《引退犬飼育 1》
『2頭目の引退犬を迎えて』
御代田町 山本 美津子
御元気でお過ごしの事と思います。
昨年10月、我が家では2頭目となるリタイヤ犬エミーがやってきました。エミーは15才。高齢のため不安もありましたが、協会でエミーと会う前から私の心はもう決まっていました。一緒に暮らそう…と。
エミーは 13才直前まで仕事をし1年間そのままユーザーさんの所にいて、協会に戻り、そして我が家へやって来ました。目の方もそんなに悪くもなく耳も少し遠い程度ですが、徘徊をし、吠えたり、うっかりすると、粗相もするのでサークルにいる時間が長かったのですが、病院の先生の指導のもと、明るく前向きにエミーと接してきましたところ、わずかながら元気に、若返ったように思われます。今はサークルにいる時間がずいぶん短くなりました。散歩も、2才になる犬と一緒にとても楽しんで歩いています。今では色々な物に興味を示し、明るい顔になった事が何よりうれしく励みになっています。人も犬も同じ、我がゆく道と思い、何があってもいつも楽しい気持ちでエミーと生活していきたいと思っています。そして私を理解し、協力してくれる家族に心から感謝しています。現役が長かった分、長生きして余生を楽しく過ごしてほしいものです。
皆様もどうぞお体を大切にお過ごし下さいませ。
《レクイエム》
昨年10月以降に亡くなった引退犬を紹介します。盲導犬の仕事から引退した後、使用者に代わって大きな愛情と手厚いお世話をして下さった引退犬飼育者のご家族の皆様に感謝と敬意を表します。
ワンちゃんたち、ありがとう。看取って下さった皆様、本当にお世話様になりました。
【ユール】
ユール(ラブラドール、雌)は大阪の日本ライトハウス行動訓練所の出身。長野県内の使用者を約13年間パートナーとして支えてきました。15才で長野市の清水栄さん(現在は上田市在住)の家に引き取られました。亡くなった日はユールの満18才の誕生日だったとのことです。(2002年11月28日、満18才)
【サリー】
サリー(ラブラドール、雌)は横浜市の日本盲導犬協会の出身。盲導犬として、11才まで静岡県内の視覚障害者を支えてきました。11才6カ月でリタイヤ犬として茅野市の近藤頼子さんの家に引き取られました。1年半ほど前から体調が不安定になり、老齢によるボケ症状を表すようになったそうです。今年に入り多臓器障害による体力の衰えが急に進んでいました。最期は穏やかで眠るように逝ったとのことです。(2003年2月23日、満17才10カ月)
【ネリー】
ネリー(ラブラドール、雌)は横浜市の日本盲導犬協会の出身。岐阜県内で8才まで盲導犬として仕事に励みました。肝臓疾患を持っており8才過ぎに仕事から引退し、再び日本盲導犬協会に戻りました。その後長野市の清水栄さん(現在は上田市在住)宅で4年間の余生を送っていました。亡くなる直前まで家の周りを散歩するなど穏やかな毎日が続いていましたが、持病の肝臓疾患が悪化して亡くなりました。(2003年4月28日、13才)
【フロスイティー】
フロスイティー(ゴールデン、雌)はアメリカの盲導犬協会の出身。米国に在住していた日本人視覚障害者が在米中に使用していました。本人の帰国と共に日本に連れて来ましたが、重い心臓疾患を持っており、日本国内では盲導犬としては働くことはなかったそうです。本人の強い希望により日本盲導犬協会が引退後の引き受け先を捜しました。昨年12月に上田市の清水栄さん宅に引き取られましたが、約1カ月後に亡くなりました。(2003年1月11日、13才)
《引退犬飼育 2》
『ユールを看取って』
上田市 清水 とき子
ハーネスの会の皆様、先日は退役犬ユールに過分な御香典をいただき有難うございました。厚くお礼申し上げます。
2002年11月28日、18才の誕生日(11月20日)を迎えて間もなく静かに息を引き取りました。我が家の一員になって2年6ヶ月でした。やっとユールを亡くした悲しみからも立ち直り、思い出を書く気持ちになりましたので文にしたためお送り致します。
“さようならユール”
[新しい家族]
ユールが我が家の一員になったのは2000年の5月でした。今迄6頭の退役犬をお預りしたのですが、だいたい10才から12才でしたがユールは15才と云う高齢犬でした。其の上、皮膚病がひどく背中とお腹の毛が抜け落ち痛々しい程皮膚が赤くただれ、ひどい状態でした。早速、獣医さんに診ていただきましたところ、薬をつけるよりこれは毎日毎日薬湯で体を洗ってやることが一番とのことで、毎日毎日体洗いが日課となりました。犬の15才は人間では80才位です。白内障も進み耳も殆ど聞こえず、これで盲導犬をしていたのかと驚きました。毎日の体洗いの効果が出て約3ヶ月で抜けていた毛も生え揃い見違える様な犬になりました。この体洗いは週に2回ユールが死ぬまで続きました。
[老いる]
ユールもすっかり我が家の一員になり散歩に行ったり我が家の犬達と仲良く遊んで居りましたが、散歩に出てもつまずいたり他の犬達より遅れる様になり、その衰退ははっきり解ってきました。獣医さんも散歩はもう無理でしょうとのことでしたので家の中を歩き廻る程度になりました。
[協力]
ユールが我が家に来て2年がたつ頃には殆ど寝て過ごすことが多くなりました。毎日の体拭き、耳の掃除、さらに大小便の時は抱いて外でやるのですが、30kg近い体ですので息子の仕事でした。夜は尿パットの取り替え、お尻拭き等24時間休む間もありません。でも誰がするのかでもめた事は一度もないことは自慢出来るのかもしれません。私達家族にとって老犬達は、疑問の余地なく家族の一員と云う証だと思っています。
[別れ]
ガラス越しに冬の日差しの中で体を拭き撫でてやっている情景は今も忘れられない一コマです。10月下旬からユールはひとりで殆ど起き上がることが出来なくなり、寝たきりの生活になりました。大小便ももう外では出来なくなりました。手の空いている限り体をさすってやると安心してかすかに尻尾を振るのです。固形物の食事は摂らなくなり、獣医さんからいただいて来る栄養食を水で溶きスポイトで喉の奥へ流し込んでやる様になりました。それも段々と受け付けなくなり、ただただこんこんと眠り続けるだけでした。もう意識は殆ど無いと思いましたが私が撫でてやると目を開けて見るのです。人間の知恵ではどうすることも出来ず悔しく悲しいのです。分かっていても死と云う前では自分は何をなす術もない者である事を思い知らされました。毎日体をさすりながら「ユールもう楽になってよ、がんばらなくていいよ」と云い続けました。11月28日朝9時。とうとう其の時が来ました。私の腕の中で大きく口を開け深く息をしてガクッと頭を落とし静かに天国へ旅立ちました。ユール本当に長い間ご苦労様でした。
[悲しみ]
ユールを荼毘に付し小さな箱に入ってしまった骨を腕に抱えて家に帰ると、今迄ユールの寝ていた所にはもう待っているものはいません。この時になってようやく私はユールが逝ってしまったことを現実に感じる様になり、堰を切ったように悲しみが襲ってきます。しかしこの仕事を引き受けた時から、一頭の犬にどれ程の人達の別れがあったか、その時の皆の思いを私は最後に引き受けることになるのだと云い聞かせ、これからもこの仕事を命あるかぎり続けていこうと思っています。
最後に、盲導犬との別れは多くのユーザーにとって避けては通れないものです。長年一緒に暮らしてきた年老いた盲導犬の老後を誰がみてくれるのか? その人は自分が思うほど大切にこの子を思いやってくれるだろうか? そしてこの子は自分から離れて新しい生活に慣れてくれるだろうか?と心を砕いている人が多くいることを知りました。ユーザーが安心して新しい盲導犬と歩むためには、ボランティアへの信頼は不可欠です。私は若い犬と新たな歩行に挑戦するユーザーから、看取る辛さに報われるに十分な喜びが与えられていると思います。
《事務局》
『募金とご寄付の報告』
昨年10月から現在までに寄せられましたお店での募金と学校や団体からのご寄付をご紹介します。
松本市 ヤマザキディリーストアー竹渕店様 4,360円
松本市 赤ちょうちん様 5,629円
松本市 丸山治療院様 5,660円
松本市 伊藤産業様 2,869円
長野市 山王小学校5年生一同様 12,332円
長野県 上田千曲高校文化祭様 20,215円
飯田市 座光寺小学校5年生一同様 9,958円
長野市 長野北東ロータリークラブ様 155,723円
松本市 ゆきげの会様 1,600円
松本市 中島さんよりのテレカ寄付分換金 59,500円
合計 277,846円
《編集後記》
桜が開き、つつじが咲いたと思っていましたら、いつの間にか初夏になっていました。13号発行から半年近くが過ぎてしまいました。このように発行が延び延びになってしまい本当に申し訳ありません。かなり前に原稿をご用意していただいた皆様にもお詫びします。
本号では期せずして引退犬4頭の訃報を紹介することになりました。使用者は犬が若くて元気な時期を共に過ごすわけですが、犬たちにとっては寂しく手のかかる老後を共に寄り添って下さる引退犬飼育者のことに改めて思いを深めることができました。
(お断り) 北沢とも江さんの《連載》『盲導犬が来るまで』(2)は次号に掲載します。
(編集係 原)