ハーネスながの
2013年 11月 第41号
発行:長野県ハーネスの会会長 前野 弘美
FAX 0263(35)8024 携帯080-1043-7315
事務局:〒390-0871 松本市桐2-4-44-1
http://www.harness-nagano.com
本号の目次
《会議報告》 『ハーネスの会第2回運営委員会』
《調査報告》 『平成24年度盲導犬年間経費実態調査結果』 〈全体傾向〉
《連載/信州こんなところ・こんな話⑧》『こんにちは、ちょっと一息』 (2)
《会員紹介》 『点訳を始めて30年』
《デビュー》 『ビクターと共に』
《連載/旅は犬連れ世は情け⑨》『市民運動会、百足競争は究極のパリアフリー種目』
《コメンタリー41》『障害者差別解消法が成立しました』
《事務局から》『疾病治療費助成を希望するユーザーのみなさんへ』
《編集後記》
《会議報告》
『ハーネスの会第2回運営委員会』
会長 前野弘美
【日時】 平成25年9月16日(月・敬老の日)10:30~15:00
【会場】 松本市大手公民館 視聴覚室(2F)
【参加者(敬称略)】 11名 北澤とも江・北沢さんご主人・古川智恵・前野弘美・田中安子・坂田雄之・依田舞・松尾寿美子・丸山訓代
【配布資料】レジメ、補助犬関連費用調査結果・集計、市町村の補助犬支援施策まとめ
【議題】
1,連絡・情報交換
・小田道子さん持ち替え。9月24日バル引退・25日訓練に。引退後は会員により飼育。
・音もなくバックしてきた高齢者が運転する車に右足に載られてしまう事故があった。
運転者が異常に気が付かない事がある。(車を叩いて訴えた)
・補助犬の健康診断、ドッグ・ドック実施(平成25年度)
・アパホテルを予約しようとして、
「当方では、犬のための設備を用意しておりませんので、受け入れはしかねます。
ペットホテルを予約していただきたいのですが」とのことでした。(事例報告)
・名古屋でタクシーの盲導犬の乗車拒否に遭遇した事例
県窓口を介して、「徹底します」との回答を得る。
MKタクシー(長野) 田中さんに話し対応して頂く。
2,総会・第1回運営委員会後の事業(チーム別活動)
①ウェルカムチーム
・飯綱町(いいづなまち)ふれあい広場にブース設置
日本盲導犬協会と共同で設置した。
加藤さん、坂田さん、丸山さん、依田さん、まみさんが参加し、グッズ販売。
20,000円収入(日本盲導犬協会と折半した。)
〔当日の様子〕
花火があり、ラピートはパニック状態だった。
子供さんが多かった。
盲導犬体験を日盲さんが行った。
話をするために立ち寄るのでは無く、雑談の様な会話を交わした。
子供さんは体験の犬は触って良いのに使っている犬は触ってはいけないという違いを理解しきれない様子を見せていた。
・講演会の講師依頼への対応
塩尻、木曽町、長野市
・信号機に関して
信号を押しボタン式のスクランブル(歩車分離)にしたいとの相談があった。
高校から交差点を一度で渡りたいとの要望があった。
警察から、視覚障害のある方々が良いと言えば変えられますとの話を受けたとの事で、高校から地元の視覚障害者に問い合わせがあった。
スクランブルは方向を失いやすい、直角に渡る必要がある。
ボタンの位置がわかる音響対策が必要である。
晴眼の人の利便性と盲導犬での横断の不便さの比較となる。
②対策チーム
・冒頭の事例報告
③広報チーム
・盲導犬の経費実態調査
・市町村の補助犬支援実態の調査
・会報発行
・調査の結果を会報に掲載する。
・会報には経費実態の集計のみで良いと考える。
・調査回答者には個別のデータも公開する。
④ハーネス基金チーム
・医療費補助のあり方については多くの会員の居る場で話したい。
⑤事務局チーム
・会費納入者85名。少なくなっている。
・総会議案書の送付、会費振込用紙送付
・寄付受け入れ
盲導犬サポートクラブ 桒山様 10万円
・名簿整理
会員アドレス 唐沢さん
3、今後の事業
・次回運営委員会
3月2日 長野市
・平成26年度に補助犬法に関してのイベントをしたい(ハーネスサミット)
4,その他(確認及び意見交換)
○県 盲導犬の持ち替え希望者確認
○市町村の飼育管理費助成について
・助成を受けることに申し訳ない様な心持ちになる。
(自身の経済状態から考えたら今は必要は無い)
・必要と感じる方については補助があることは望ましい。
・県内に住まう補助犬の使用者に関して支援について格差があることは不公平だ。
・支援を受ける受けないは個人の判断であるが、会としては県内の支援の状況を支援の無い市町
村に知らせることは必要である。
・諏訪市のユーザーは希望しているので対応をする。
○「活動をしていないので退会する」と言う人がいたことについて
・活動が会員に見えていない。
・一般会員の参加があまり見られないのはなぜか。
独自イベントでは限界があるのか?
・他の団体が主催するイベントに参加し、ハーネスの会をアピールするのはどうか。
・いろいろなイベントに盲導犬を連れて数人で参加すればそれだけで目立つ。
・ハーネスの会をアピールするジャンバーなど考えたらどうか。
・見えやすさだと帽子にネームを入れるのも良いのではないか。
名前入りのビブス・チョッキ・帽子など検討したらどうか。
・荷物やゼッケンなどで隠れてしまうのはもったいない。
・ウォーキングなど歩くイベントはより目立つのではないか。
・上田に真田幸村ロマンウォークと言うイベントがあるがどうか。
(要項を調べ可能なら紹介する)
・イベント情報を会員の方からも寄せていただく。
《調査報告》
『平成24年度盲導犬年間経費実態調査結果』 〈全体傾向〉
編集・広報チーム
本会では6月から7月にかけて、会員の盲導犬使用者に対して盲導犬使用に必要な年間経費について実態調査を行いました。
今回の目的は、個々の使用者が支出した年間経費の中味を点検したり他の会員と比較したりすることを通して、年間支出を見直す機会をつくること。
更に、対外的には行政や社会に支援をお願いする際に理解を深めていただくための資料づくりの側面もありました。
[調査結果から分かること]
○盲導犬1頭当たりの年間必要経費の平均額は121,521円となっています。
また、年間経費額の分布を見ると9万円以上15万円未満の金額帯に14名(71%)が含まれています。
もう一つの特徴として、使用者間で支出する年間経費にも大きな差があり、最大6倍の開きが見られました。
○年間経費の支出項目では、ドッグフードを中心とする餌代の占める割合が最も多くなっています。
平均60,094円(経費全体のおよそ50%)となっています。
盲導犬使用者は品質が良好で安定したフードを与えることを心がけていますが、使用者によって餌代の支出額には大きな幅が見られました。
特殊なケースとして、アレルギー症の治療食に年間234,400円を支出している使用者もいました。
○高額医療費が大きな負担に。
病気の予防や治療のために支出した年間平均額は37,469円でした。
健康で大きな病気をしない場合の支出額は全く問題はないのですが、長期に渡って治療を続けなくてはならない疾患を持った犬の場合の負担額は深刻です。
今回の回答者のなかにも年間27万円を超える医療費を支出している使用者が2名いました。
○多くの使用者が支援を希望。
盲導犬がそれぞれの使用者の日常生活や社会参加にとって心強い支えになっていることは言うまでもないことです。
しかしその維持費として年間平均12万円前後の支出は決して小さくありません。
県内では長野市や松本市など8つの市や町で年額36,000から40,000円の支援事業を行っています。
未だ事業を実施していない地域に住む使用者の多くが年間50,000から60,000円の支援を希望しています。
また、高額な医療費がかかった場合のみに、それに相当する医療費支援を希望する使用者もいます。
[全体集計の結果]
1 実態調査について
(1) 実施期間 平成25年6月17日~7月5日
(2) 対象期間 平成24年度または最近の過去1年間
(3) 調査対象者 長野県ハーネスの会 盲導犬使用者 23名
(4) 回答者数 23名 ※ 回答率 100%
(5) 調査方法 電子メールまたは電話
2 使用盲導犬について
(1) 盲導犬の平均年齢 6.8才 ※平成25年6月20日現在
(2) 雌雄別頭数 オス 10頭 / メス 13頭
3 年間経費の支出額
(1) 年間平均食糧費 60,094円
(最低額26,000円 最高額120,000円)
(2) 年間平均医療費 37,469円
(最低額10,000円 最高額270,000円)
(3) 年間平均の衛生管理、用具、諸雑費 23,958円
(最低額9,000円 最高額79,536円)
(4) 年間平均経費 121,521円
(最低額51,000円 最高額330,000円)
4 年間経費の金額別分布
50,000円以上~ 70,000円未満 2人 9%
70,000円以上~ 90,000円未満 4人 17%
90,000円以上~110,000円未満 5人 22%
110,000円以上~130,000円未満 6人 26%
130,000円以上~150,000円未満 3人 13%
150,000円以上~170,000円未満 1人 4%
250,000円以上 2人 9%
合計 23人 100%
5 行政による支援希望額
(ア) 月額10,000円ぐらい 4人 17%
(イ) 月額 5,000円ぐらい 15人 66%
(ウ) 月額 3,000円ぐらい 1人 4%
(エ) 希望しない 1人 4%
その他 2人 9%
23人 100%
※『その他』には、「高額医療費分」、「保留」などがあった。
(文責 原哲夫)
《連載/信州こんなところ・こんな話⑧》
『こんにちは、ちょっと一息』 (2)
今回は、長年にわたって引退後の盲導犬を飼育してくださっている、上田市在住の清水とき子さんと、息子さんの栄さんをお訪ねしました。
清水とき子さんは、平成3年から20年以上にわたり、盲導犬の引退後の飼育に関わってこられました。
これまでに8頭の引退犬を看取り、現在はバランス(オス、14才)と、ターム(オス、11才)の引退盲導犬を飼育されています。
とき子さんが、引退犬飼育ボランティアをしようと考えたきっかけは、膝を痛めたご主人に付き添って、ハリ治療で訪れた治療院での出会いからでした。
大きなシェパードが室内におとなしく待機していることに驚いたとき子さんでしたが、そのシェパードが盲導犬であると知って、すっかり盲導犬のファンになったそうです。
いずれ、還暦を迎えた折には、何か継続して出来るボランティア活動をしたいと思っていたとき子さんは、さっそく、盲導犬を訓練している協会に電話をかけたそうです。
「何か自分に出来るお手伝いがあるか」相談してみたとのことです。
そのころ、自宅には大型犬が2頭いたため、「子犬の飼育は難しい」と言われ、「それなら」と引退盲導犬飼育ボランティア登録をすることにしました。
すると、すぐに、最初の引退犬のクッキーを預かることになりました。
以来、盲導犬だけでなく、繁殖犬も含めて、引退犬の飼育と看取りを間断なく続けてきました。
「うちのペットとして飼っている犬を含め、常時、複数の犬たちに囲まれた生活になり、それに合わせて自宅を改造したんです。」と語るとき子さん。
足腰が弱くなっていく犬たちのために、段差のない床にして、屋内と屋外も無理なく移動できるようにしました。
「最初に預かった盲導犬のクッキーが亡くなった時には、あまりにも悲しくて、二度と出来ないと思ったけれど、次の依頼がきてみると、自分がお役に立てるうちは何とかしたいという気持ちになってしまった。」と微笑されるとき子さん。
とはいえ、大型の老犬たちの世話は、ひとりでは困難な場面もあります。
そんなとき子さんを支えてくれる存在が栄さんです。
お話を伺っている間も、栄さんは、運動とトイレのために、何度も、バランスを屋外へ連れ出していました。
すでに、自力では起き上がることが困難になっているバランスには、筒型の洋服を着せています。
背中には持ち手がつけられているので、持ち手を持ち上げて、バランスが起き上がりやすいように、また、歩行しやすいように支えてあげます。
一方、タームは、今年4月から清水さんの家族に加わりました。
とっても元気一杯で、冷蔵庫の前が好き(指定席)なターム、足腰が弱ってきたバランス、ペット犬のムク、ラブ、バロンの3頭、合計5頭の犬と2匹の猫の世話に忙しく追われている清水さんのご家庭でした。
(北澤とも江)
《デビュー》
『ビクターと共に』
東御市 両角 幾雄
本年度から長野県ハーネスの会に仲間入りさせていただいた東御市在住の両角幾雄(モロズミイクオ)です。
4月末に共同訓練を終了し、3ケ月半になります。
しばしば、道に迷う事がありました。公園の林の中を1時間以上さまよったり、最寄駅から自宅まで1時間位なのですが、2時間半以上かけて帰宅した事もありました。国道、県道の交通量の激しい車道を歩いていた事も。訓練士の方に「盲導犬といえども、やはり犬なので、安全確認、確保は自分がしっかり行う事」と教えられました。
しかし、困った事ばかりでなく楽しい事も。家族で買い物や食事を楽しんだり、3歳の娘を初めてお祭りに連れて行く事もできました。娘は楽しそうに出店を歩き回っていました。ビクターは、おいしそうな匂いがあちらこちらでするので、匂いかぎが大変でした。
まだまだ、ビクターとの生活は始まったばかり。これから、娘をいろいろな所に連れて行き、楽しい思い出をつくってあげたいと思います。
長野県ハーネスの会の一員として、これからも宜しくお願いします。
《会員紹介》
『点訳を始めて30年』
長野市 片山幸子
初めまして、片山幸子です。生まれたのは上田市で、現在は長野市の安茂里に住んでいます。30年来点訳活動をしています。長女が9カ月の頃、「う~ん、育児じゃなくて、介護(義母は今で言う要介護5)じゃなくて、何か他のことがしたい!」という思いが日増しに強くなりました。そしてある日見つけた新聞の点訳講習会の記事。「これだ!」・・・、というくだりのこの話をすると、「育児や介護に疲れて点訳を始めるのは変わってる」と大抵の人は言います。当時「ボランティア」という言葉は市民権を得ていず、「お金にもなんないことをよくやるねえ」と言われたものです。でも私には向いていたようで、ちょっとした時間を見つけては点字盤に向かう毎日がとても新鮮でした。以来、一度もやめようと思ったことはなく、楽しく続けています。
もうひとつ長年続けているのが、外国人のための日本語教室です。これもボランティアですが、このふたつの活動が様々な出会いをうみ、私を元気にしています。今回ハーネスの会の皆さんと出会え、何が始まるのかなあ、とワクワクしています。どうぞよろしくお願いします。
《連載/旅は犬連れ世は情け⑨》
『市民運動会、百足競争は究極のパリアフリー種目』
飯田市 原 哲夫
早いものだ、もう今年を顧みるころになってしまった。私にとって今年、2013年最大の体験というか最大の発見について書きたいと思う。いや、今年どころか過去5年、いやいや過去10年どころではない。35年間の視覚障害生活の中でも最大級の体験をしたような気がする。
それは何か?
地区の市民運動会で一般種目、しかも分館対抗採点種目に参加したことに起因する。何だそんなことかと思われるお方もおられるかも知れない。
地区の運動会と言えば、嘗て若かりしころ6㎞のマラソンに参加したことがあった。そのころから急激に視力を失い、しかも地元から離れたため地区の運動会とは全く疎遠であった。
4年前に帰郷してみれば、毎年の体育の日の秋の1日、我が飯田市竜丘地区の市民運動会は結構にぎやかに盛り上がっている。私の家は小学校に近いためスピーカーを通してのプログラムの進行、競技スタートの号砲音、応援の鉦や太鼓、そして歓声など会場の雰囲気が否応なしに伝わってくる。昨年までは参加はおろか見物や応援も今や無縁と聞き流してきた。
ところがである、9月のある土曜日、小学校の運動会の歓声が聞こえる畑で刈り倒した枯れ草処理の作業をしていて急に思いついた。「今年は地区市民運動会に参加してみようか」と。今考えても不思議だった。断たれていた回路が突然つながりスイッチが入ってマシンが動き出したように。数日後、私は時又区の公民館長をしている知人に電話で希望を伝えた。「そうかな!、何に出 てもらえる?」。私は、「百足競争。一人で走るような種目は駄目だ。百足だったら先頭と最後尾以外だったらどこでもいい。」と応えた。彼は「目が見えなくても大丈夫かな?」などという野暮な質問をすることはなかった。
参加を申し込んでから分かったことだが、分館対抗百足年次リレーは各チーム6組が年代別に1組5人で一つの百足を組む。第1走者は50歳以上組で次に40代、30代とリレーし、アンカーは10代の中高生組と続く。私は50才以上の第1組に入れられた。運動会の2週間前から3回の夜間練習があった。「百足競争だったらやれる」と大見栄を切ったものの女房からは「ほん とに大丈夫かな?」と言われ一瞬自信が揺らぎそうにもなった。とにかく練習に出て感触を掴み、可能性を確かめることにした。
一抹の不安を抱きながら臨んだ最初の夜間練習。同じクルーの4人は皆昨年もこの百足リレーに参戦している常連。毎年、時又チームの第1組クルーはトップで第2組にバトンタッチしているとのこと。第1組はトラック半周、第2組以後はそれぞれトラック1周である。この夜は他の種目に参加する人たちもそれぞれ種目毎に集まり和やかに練習していた。午後8時ごろになると50歳以上の第1組メンバーが全員集まった。50代前半が3人、もうすぐ50才(未だ49才)という若者?が1人、そして私は言うも憚りたくなる65才。あいさつもそこそこに、地面に平行に並べられた2本のロープの内側に5人が順番に入り渡された布紐で左右の足首とロープを結んだ。私は5人クルーの第3番目で百足の真ん中を与えられた。前の人の肩を両手でしっかり掴み、両腕を軽く伸ばした程度に両足の位置を決めて準備完了。先頭クルーの「用意」のかけ声で左足を軽く上げ、更に「1」、「2」のかけ声に合わせて「左」、「右」とリズムを刻みながら徐々にスピードを上げて行った。この夜は数回に分けてトラックを1周半ほど走った。コーナーのカーブでも飛ばされたり、前の人の踵を踏むようなトラブルもなかった。2、3日して、「運動会・百足年次リレーの選手委嘱状」なる正式な通知が届いた。初回の練習は私にとってはオーディションでもあったようだ。
10月13日、運動会本番、分館対抗の百足年次リレーは午後2時30分スタート。最終種目で運動会最大の山場である。しかし時又分館は残念なことに最終種目の結果を待たず優勝の可能性は消え、百足で勝ったとしても第3位という情勢だった。私は内心ほっとした。百本ならぬ10本の足を繋ぐロープと足首とを入念に紐で結び、靴ひものチェックを終えて5チームのそれぞれ第1組がスタートラインに並んだ。応援の笛や太鼓と歓声で最後尾からの支持も聞こえないくらいの喧噪。スタートライン上でのコース(トラック内側からの順番)は抽選の結果5チーム中の4コースとかなり不利なポジション。スタートの号砲音より前に足踏みは禁止。号砲一発で「1」、「2」と左足から踏み出した。5人の呼吸も左右の脚のリズムも合っていていいスタートだ。練習のときよりかなり速い。とにかく最初のコーナーに入るときの順位で流れが決まる。どのチームもその1点を目がけて必死のダッシュ。左側のチームと接触しながら競り合い、外に押し出されそうになったが我がクルーの先頭はぐんぐん突っ込んで行った。カーブの頂点付近で右手が肩から外れて飛ばされそうになるも体勢を取り直し、くらいつき、声をかけながら走った。
トラック半周のレースは僅か1分足らずで終わった。アクシデントもなく最期までリズムも乱れず走り抜くことができた。足首の紐を解いてロープを外しているとクルーの一人ひとりが肩を叩いたり握手を求めてきてくれた。我がクルーはトップから遅れること2m、2位で第2組にバトンを渡したようだ。因みにトップて駆け抜けたのはスタートラインで第1コースを引いたチームだった。最終的には時又チームは一つ順位を落とし3位でフィニッシュしたそうだ。
爽快だった。スタートダッシュからコーナートップを目指して5人の男たちが息とテンポを合わせて突っ込んでいく連帯感。他チームとの順位争いで肩をぶっつけ合う迫力。状況を掴めないままにも走り続けるスリル。観ている人たちにとっても予期せぬアクシデントでつまずくチームの滑稽さもあったりして盛り上がる。
百足競走は、市民運動会では伝統的な団体種目として、今も各地で行われているのではないだろうか。視覚障害のある人にとっては、バリアフリー種目ではないかと思う。前にいるクルーの両肩を掴んでいるので、手と腕を通して前方からの動きが伝わり方向やスピードも分かる。足もそれぞれロープで繋がっており、歩幅も決めやすい。練習によって走行技術は向上する。他のクルーと同じ程度の気力と脚力さえあれば、視覚障害が大きなハンディにはならず、他のクルーに特別な負担をかけることもないし、同じ働きができる。本番が近づくにつれて私にとっては全盲という障害よりも年齢からくる衰えの方が心配になっていた。参加を思いつき、希望を伝えるときには全く気にもかけなかった。50代前半の若者(?)の中に入ると、毎日ガイダと早朝ウォーキングで鍛えているとは言え、やはり差はあるはず。もし、我らクルーもトラック1周することになっていたら私は脚がもつれてアップアップだっただろう。とにかく、百足競走は視覚障害にとってバリアはないことは確かめられた。
《コメンタリー41》
『障害者差別解消法が成立しました』
「障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会」座長代理 池田 純
[制定の背景]
2006年12月、国連総会において障害者の権利条約が採択され、各国のこの条約の署名及び批准手続が始まりました。
我が国も2007年9月、署名はしたものの、批准するには、国内法の整備が必要であり、多くの法律の改正に向けての検討が始まりました。
しかし、法律の改正に消極的な官僚の抵抗に遭い、「広く国民の意見を聞く」という建前の下、遠々と関係者のヒアリングが始まりました。
一方で、2006年4月に施行された「障害者自立支援法」の違憲訴訟が、全国17の裁判所に提起され、この法律の違憲判決が続々と出されました。
そこで自民党と公明党の政権は、「面倒な国内法の整備をしないまま批准だけしよう」と考え、2009年3月、強引に批准手続に入ろうとしましたが、障害者団体の強い反対があり、批准を断念しました。
そして、その年の8月に誕生した民主党政権が各地で出された違憲判決に基づき、「障害者自立支援法の抜本的改正、障害者差別禁止法の制定」を約束しました。
この約束を実現するために設置されたのが「障害者制度改革本部」であり、その下に「障害者制度改革推進会議」が設けられ、過半数が障害当事者というこれまで例のない委員構成の委員会での検討が始まりました。
この会議の部会として「障害者総合支援法部会」と「障害者差別禁止法部会」が設置され、熱い議論が展開されました。
そして、2011年8月、「障害者基本法」の改正法が施行され、共生社会の実現、医学モデルから社会モデルへと転換し、社会的障壁という言葉も法律の中で初めて使われ、障害者の範囲が発達障害者まで広がりました。
[障害者差別解消法とは]
また、障害者差別禁止法部会は、2012年9月14日、意見をまとめて報告書を提出しましたが、内閣府はこの報告書とは全く異なる内容の「障害者差別解消法案」を2013年4月10日、与党に提案し、4月26日、閣議決定、国会に提出しました。国会提出後も、障害者団体の熱い働きかけもあり、5月29日、衆議院を通過、6月19日、参議院を通過しました。
しかし、この法律には、「障害のある人に対する不当な差別的取扱い」、「過重な負担を伴わない「合理的配慮」とはどのようなものなのか全く書かれていません。
私達が最も法律の中で明らかにしてほしかった「何が差別なのか」という疑問には答えてくれていませんが、国に対しては、「差別をなくすための基本方針」をつくることが求められ、方針をつくるに当たっては、障害者政策委員会の意見を聞かなければいけないことになっています。この政策委員会の委員長は、静岡県立大学教授の石川准さんです。
地方自治体に対しては、国の基本方針に基づき、「対応要領」をつくることが求められ、民間に対しては「対応指針(ガイドライン)」が示されることになります。
法律の中では、明らかにされなかった「差別とは何か」について、基本方針、対応要領、対応指針の中で明らかにするように、衆議院及び参議院の付帯決儀で求められています。
また、自治体が制定する条例については、この法律が制定そのものや内容について拘束するものではないと明記されています。
なお、この法律の施行は、2016年4月1日となっています。
《事務局から》
『疾病治療費助成を希望するユーザーのみなさんへ』
ハーネス基金チーム
平成25年度の疾病治療費助成を希望する盲導犬使用者と引退犬飼育者は、今からご準備をお願いします。
(1) 対象期間 平成25年1月1日から12月31日の1年間
(2) 新生提出期間 平成26年1月1日から1月31日の1ヶ月間
(3) 必要書類 疾病治療費助成申請書(報告書)に獣医師の領収書を添付。
(4) その他、注意事項
・フィラリア予防の飲み薬やワクチン代、混合ワクチン接種料金、爪切り代などは対象になりません。
・他団体の医療費助成を受けた場合は受けた助成額を差し引いて計算しますので必ずご報告下さい。
・ご不明な点は事務局の田中さん(090-5808-4453)までお問い合わせ下さい。
《編集後記》
木々が錦に彩られ美しい季節となりました。
大根おろしを添えた焼きたてのサンマをおかずに新米をいただく時、しみじみと幸せを感じます。今年は春先の降霜や低温の影響で、庭の柿やクルミの木に実がならず残念でした。異常気象という言葉が当たり前になりつつある昨今、自分が出来ることは何かと考えるこの頃です。
これから寒さが増していきますが、皆様お元気でお過ごし下さい。
(池田)