会報 「ハーネスながの 第63号」


    『ハーネスながの』第63号 (2021年12月) 
発行:長野県ハーネスの会 会長 池田純 編集 前野弘美 片山幸子
〒381-0043 長野市吉田3-16-13 (株)Jハート内 Tel. 026-214-0802

振込み:ゆうちょ銀行 00570-7-17991 「長野県ハーネスの会」
      ーーーー ーーーー 本号の内容 ーーー ーーー
運営委員会 第2回運営委員会報告と挨拶          会長 池田 純
コメンタリー けんけんこうじつ(犬権好日) ?         池田 純
連載 旅は犬連れ、世は出合い? 「」     てくてく
文芸 天使と歩む四季の歌 ?             広沢里枝子?
連載 本ほどステキなものはない!?              池田 純
デビュー サラン
レクイエム ディライト あんず バル  福崎直明 清水順子
ハーネス基金 疾病治療費助成の申し込み方法の一部変更について 原 哲夫
事務局から
編集後記                  片山 幸子
        ーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーー 
運営委員会報告 オンラインで開催  第2回運営委員会    会長 池田 

長野県ハーネスの会の会員のみなさん、ご支援いただいているみなさん、その後いか
がお過ごしでしょうか?新型コロナウイルスは、その第5波がほぼ収束し、人々の動
きも活発になってきました。
 長野県ハーネスの会では、感染予防のため2年連続でミニ旅行も中止し、総会、運
営委員会もオンラインで開いています。
 そのような中でも、新たな盲導犬と共にそれぞれの盲導犬ライフを始めた会員もい
ます。また、運営委員会を11月14日(日)にオンラインで開催し、以下の内容が話し
合われました。
(1)ハーネス基金の疾病治療費の申請様式を一部変更します。これまでの様式では、
会員にとって申請に困難を感じていたとの意見を受けての改正です。
(2)対策チームでは、池田が長野市内で入店拒否に遭った事例が取り挙げられました

(3)会報チームからは、これまで以上に広く原稿を寄せていただけるように呼びかけ
ていきます。
(4)上田市で、長野高専の藤澤教授を中心に開発を進めている視覚障害者のためのハ
ザードマップについて学習会を開いたとの報告がありました。
(5)上田市で募金箱を置いていただける所が2店増えました。
(6)善光寺の内陣と内々陣が盲導犬を拒否していることについて、どこまで入れても
らうように求めていくのか、様々な意見があることを確認しました。
(7)長野県の「共生社会づくり条例(仮称)」のパブリックコメントが近く始まりま
す。
(8)広沢さんから、12月の初旬に長野県立美術館で職員向けの研修をすることが報
告されました。
 ◇次回運営委員会 2022年3月6日(日)
 ◇次年度 総会 2022年6月19日(日)
コメンタリー けんけんこうじつ(犬権好日) ?          池田 

私が参加しているMLに「災害時の避難所に補助犬を受け入れます」とホームページで
明記されたというニュースが、島根県から届きました。
 そこで私は、今年の5月に内閣府が発表した「福祉避難所ガイドライン改定版」を
チェックしてみましたが、補助犬のことは書かれていません。国も考えていないこと
を島根県が宣言したのかと驚きながら検索してみると、環境省のガイドラインが見つ
かりました。
 ◆「身体障害者補助犬」と避難所などへの同伴について
 身体障害者補助犬とは、身体障害者が同伴する補助犬(盲導犬、介助犬及び聴導犬
)で、身体障害者の自立と社会参加に資するものとして、身体障害者補助犬法に基づ
き訓練・認定された犬をいう。
 身体障害者補助犬は、本ガイドラインが対象としているペットとは異なるため法律
に基づいた対応が必要であり、国、地方公共団体、公共交通事業者、不特定多数の者
が利用する施設の管理者等は、災害時に身体障害者が避難所などへ身体障害者補助犬
を同伴して避難した場合には、身体障害者補助犬を拒んではならないことが法律で定
められている(身体障害者補助犬法 第四章 施設等における身体障害者補助犬の同
伴等)。
 ここでいう「同伴」とは、身体障害者を介助することを目的に付き添う(同伴する
)ことと同様に、身体障害者補助犬が身体障害者とともにいることを言う。したがっ
て原則として、身体障害者と身体障害者補助犬を分離せず受け入れるべきである。
 このガイドラインは、災害時の避難所にペットを受け入れることについて環境省が
発表しているものの一部です。
 東日本大震災の際には、犬や猫のペットの問題が大きくクローズアップされ、長野
県内にもかなりの数のペットが引き取られ、その命を永らえることができました。
 このガイドラインを読むと、避難所で補助犬を受け入れるのは身体障害者補助犬法
で定められているのだから、避難所ガイドラインの中に改めて規定する必要はない、
とも読めます。
 しかし、避難所を開設する市町村がそのように考えてくれるかどうかは定かではあ
りません。そのため、島根県のように市町村をサポートする立場の県が補助犬の受け
入れについて明確なメッセージを出すことには大きな意義があります。
 そして、そのことを長野県の担当者にも提案しましたが、今のところ全く反応はあ
りません。
連載/旅は犬連れ世は出合い ? ≪特別リポート≫
      『盲導犬山歩きを振り返る』        てくてく
飯田市街地の北西に風越山(かざこしやま)という標高1535mの里山があります。中
央自動車道座光寺PAを通過する辺りから飯田ICにかけて名古屋方面に向かって走
ると直ぐ右手に迫ってくる山です。
 私と新しいパートナー・サラン、そして常連のガイドヘルパーのKさんは秋の1日
この風越山に登ることになりました。もちろんサランにとっては初めての山登りです

 ◆ どんな山か
 風越山は東または東南方向から見ると三角形のどっしりとした独立峰です。中央ア
ルプス南部山系に含まれます。右中腹部に虚空蔵山(1130m)があり、山頂(1535m)とそ
の直ぐ東の白山社奥宮(1460m)が登るときの目標地点となります。
 この山は飯田市内はもとより下伊那郡内の広い範囲からも望むことができます。
 また、私の少年期には市内の小学校高学年の遠足の目的地として定番になっていま
したから、多くの市民が1度は登ったことがあるはずの山です。
 虚空蔵山と山頂手前の展望台(1420m)から東南方向の眺望はなかなかのものです。
手前下方に飯田市街地と近隣地域、その先は左から右へ天竜川が流れ、その対岸には
河岸段丘(かがんだんきゅう)地形がはっきりわかります。そして視線の水平の高さ
に伊那山地の鬼面山(きめんざん)や小川路峠などの頂が入ります。さらにそれより
高い向こうには雪を被る南アルプスの連山が並びます。仙丈ケ岳、北岳、塩見岳など
の頂です。伊那谷の下伊那地域の全体地形が俯瞰できるような場所です。
 登山コースは登山口によっていくつかあり、途中で合流しながら最終の山頂へは東
と西からの2コースが到達します。登山道は部分的には急勾配の場所もありますが山
頂まで概ねよく整備されています。
 登山口の標高は650m辺りです。それぞれの登山口から山頂までの距離は5.0?から5
5?ほどです。歩く距離は短いものの一気に高度を増していくことになります。
 風越山は植生も豊かで標高1300m辺りには長野県の天然記念物のベニマンサクの群
生地もあります。秋の紅葉は山頂から徐々に下りて来て大変美しいのです。
 そんな訳で風越山は飯田市民にとってはどこからも四季折々の姿を誰でも見ること
ができて比較的容易に登ることのできる里山として親しまれています。
写真:風越山の全景(天竜川の東側から撮影)
 ◆私の盲導犬登山とは
 盲導犬を伴って山登りすると言っても北アルプスとか南アルプスの3000m級の山岳
を目指している訳ではありません。基本的には標高2000mぐらいまでの里山に限りま
す。
 私の場合は登山とか山登りというより里山ハイキングとかトレッキングといわれる
レベルというのが正確なところです。
 私が傾斜の急な山道を進むとき、パートナーの盲導犬のハーネスを左手で掴み、右
手には必ず白杖を持ちます。
 盲導犬は障害物(主に大きな石や岩)を避けたり段差の手前では止まって知らせて
くれたりしながら誘導します。私は足元の地面の状況を杖で確かめながら盲導犬より
わずかに遅れながらついて行きます。上りの山道ではこの方法は大変有効です。
 ◆ 12年ぶりに風越山へ
 11月3日の文化の日、私は12年ぶりに風越山に登りました。盲導犬連れは3回目の
ことです。
 これまで同行者のKさんと2人1匹で天竜川沿線や旧秋葉道沿いを歩いてきました
が、それらが一区切りついたことと、6月にデビューしたばかりの新しいパートナー
・サランの歓迎登山にしたいと勝手に考えたからです。サランにとっては全てが初体
験で脅威と緊張の連続だったかも知れません。
 まあ、それらは全てこじつけですが、とにかく年に1度ぐらいは何か面白いことを
やりたいというのが『おっさん凸凹コンビ』の共通の思いだったのです。
 そこで紅葉の時期に風越山へと決まったのです。するとKさんの高校時代の友人も
参加したいとの希望があり、総勢は古希前後のおっさん5人と1匹となりました。
 午前8時に登山口の一つ、表参道滝ノ沢口(648m)から歩き始めました。これまでの
経験では風越山は最初の目標となる虚空蔵山(1130m)までが急勾配で歩き始めたばか
りの身体にはきつかった記憶はありました。また山頂の直ぐ手前の白山社奥宮(1460m
)の鳥居から社殿に通じる自然石を整備した長くて急な階段が続いていたことも覚え
ています。それでもトラブルもなく犬の誘導に従い白杖で確かめながら登り切ったこ
とは清々しい成功体験として残っていました。
写真:仲間たちと、矢立付近にて
 ◆ こんなはずじゃ…、齢のせい?
 虚空蔵山まではとても長く感じました。歩き始めて先ず思ったことは、「最初から
こんな不規則な段差が続いていたっけ?」、「虚空蔵までってこんなに遠かったっけ
?」、そして終いには「虚空蔵はまだ?」と先導のKさんに尋ねる始末でした。
 私の前後を歩く仲間が段差の高さや地面の状況をことばで伝えてくれます。それら
を聞きながら白杖で確かめ、サランの動きに添うように歩を進めます。
 サランは前へ前へとぐいぐいと私の左手を引っ張って登って行きます。段差が大き
い石や丸太の土留めの前では立ち止まって私の指示を待ちます。ときには右後方の私
を振り返っているようです。明らかにどちらに行こうかと迷っている様子も感じます

 そんな場面では、「ファインド ザ ウェイ(道をさがしなさい)」と何回も指示
してサランの判断を促しました。また、褒めたり励ましたりすることも頻繁でした。
 とにかく最初の目標の虚空蔵山までは記憶していたよりずっと遠く感じ、登山道も
こんなに不規則で段差も多かったかと不思議に思うばかりでした。
 虚空蔵山を過ぎると登山道の勾配はかなり緩やかになります。所々に急坂部分や土
留めの丸太階段部分が現れますが道幅は1人1匹が通るのには十分です。因みに風越
山の滝ノ沢コースでは山頂直下を除けば急崖のような場所はありません。
 もっとも驚いた場所は白山社奥宮の手前の通称「鳥居」から奥宮社殿に通じる不規
則な岩の石段でした。大きな岩を削って足場を付けたり、小さな岩を積み上げたりと
段差が大きくまた不規則、さらには曲がりくねっている。私の12年前の記憶とはか
なり違っていました。
 それでもサランは迷い、考えながら健気にも前へ上へとひたすら引っ張ってくれま
した。
 仲間の声掛けと白杖操作、そしてサランの誘導によって登り始めて3時間で最終目
標地点の白山社奥宮に着きました。ガイドマップのコースタイムとほとんど同じです

 ◆ 上りはよいよい、下りはこわい
 下山は緊張の連続でした。特に不規則な段差の続く部分です。
 先ず、上りでも苦労した白山社奥宮社殿から鳥居にかけての、岩を並べたり岩に足
場を掘った下り部分です。ここでも私はサランのハーネスを放しませんでした。仲間
の指示を聴きながら、右手の白杖の先で足を置く位置を探します。上るときよりずっ
と段差の高さを感じました。「こんなところをよく上って来たものだ!」と。
 ハーネスを握っていたものの、このような場所では盲導犬を頼ることは全くできま
せん。逆に止まることのできない犬の勢いに巻き込まれて転落する危険さえ感じまし
た。
 時間にすれば30分足らずぐらいだったと思いますが、鳥居に着いたときはほっと
胸をなでおろしました。
 傾斜の緩やかな下りに移ると白杖を操作し、サランの動きに添って順調に下りまし
た。
写真:白山社奥宮の社殿から見た下り岩の石段
 ◆ 最後の15分地点で幸運な?初体験
 状況が暗転したのは最後の休憩地点の石灯篭を過ぎて間もなくでした。サランの動
きを意識しながら、白杖で確かめて土留め丸太から右足を前に下そうとしたときでし
た。左の登山靴の靴紐に右の靴底のかかと部分がひっかかったような感じがしました
。右足がスムーズに前に出ませんでした。その瞬間にバランスを失い、私は1段下り
ながら前に倒れるように全身を転倒させました。脚・膝・胸、そして右顔面を地面に
打ち付けました。
 運が悪かったというのか幸いだったというべきか、倒れこんだ場所は岩も石もなく
単に土の地面でした。不思議にパニックにもならず数秒後には上半身を起こし、腕や
脚、そして右の頬骨をさすって確かめました。骨折や出血はなく、耐えられないよう
な痛みもありませんでした。
 一瞬のことで仲間の4人は声も出ないほど驚いたようでした。サランも座り込んだ
私の横に立ちすくんでいました。そして衣服の土を払い落としてからサランのハーネ
スを整えて再び歩き始めました。
 ケガや後遺症は全くありませんでしたがこのアクシデントは私にとってはショック
なできごとでした。何故なら今回のような転倒はこれまで3回の風越山で初めてのこ
とでしたから。
 とは言え、今回の風越山登山(山歩き)は、同世代のKさんの友人たちも参加して
くれて、人のつながりを広める結果にもなりました。また、何よりも秋の自然の中で
チームを組んだばかりの新パートナー・サランとの絆をぐっと確かなものにする機会
になったと思います。さらに最後の15分間に起こったアクシデントは私のこれまで
と、これからの山歩きを考え直すヒントを与えてくれました。
 結果として大変良い、印象深い山歩きになったと思っています。
 ◆ 盲導犬との山歩きのまとめ
 盲導犬と歩くようになって27年になります。考えてみれば初代のマックスから現
在のサランまで私は4頭の盲導犬と山歩きをして来ました。
 上高地の徳本峠(2135m)、伊那山地・小川路峠(1641m)、美ヶ原(2034m)、中央アル
プス・擂粉木山(すりこぎやま・2169m)、秋葉道・青崩れ峠(1080m)など。
 いずれの場合も、日帰りコースの里山の範囲です。但し、擂粉木山は登山道の道幅
が全線に渡って大変狭くて盲導犬山歩きには不向きです。
 私は、山歩きでは健常者の腕を借りて歩くより盲導犬のハーネスを頼る方がずっと
自由でストレスを感じない歩き方として続けてきました。これまでの盲導犬との山歩
きを通して次のようなことを実感しています。
?登山道は1人1匹が並んで歩ける道幅があることが必須。
?盲導犬のハーネスを握っての山歩きは上りは有効だが、下りは危険を伴うことが多
い。
?盲導犬との山歩きでは使用者は必ず右手に白杖またはストックを持ってパートナー
が選ぶコースに沿って自ら一歩一歩足元を確認して進むことが必須。
?晴眼の同行者に前方の道の状態を逐次ことばで伝えてもらうことが必要。
?下山の下り坂や不規則な段差が続く場所では、パートナーを同行の晴眼者に委ねる
か解放し、自らは仲間の手引きなどのサポートを受けながら白杖で歩く方法も考える
べき。
?盲導犬にとっても主人にとっても苛酷で困難な目標をともに達成することにより強
い連帯感と信頼感を共有できる。           (原 哲夫)
文芸      天使と歩む四季の歌 ??
 『転落事故からの歌日記』            東御市 広沢里枝子
 ◆ 3月30日(火曜日)
 裏の畑から転落して骨折する。
 ◇ 不用意に盲導犬を連れずして草取りおれば方向失う
 ◇ 石垣から突然落ちて二時間半恐怖の中を激痛走る
 ◇ 脱出の方法なきやと探る手に触れしは頭上のコンクリートブロック
 ◇ もしもこのブロックの上に落ちたれば命は即座に失われいん
 ◇ 絶体絶命のさ中にありてもわれは主になお生かされていることを知る
 ◇ 生きているただそのことが有難く泥の手合わせ祈り捧げる
 ◇ 空を行くヘリコプターにも「助けて」と叫ぶが空しく音遠ざかる
 ◇ 側溝に身動きならぬ二時間半空に声する鳥を羨む
 ◇ 十一時半に配達員が来る約束ありて期待をかける
 ◇ 家の前に車の止まる音を聞き声をかぎりに助け求める
 ◇ 「助けて」と何度も声を振り絞り「どこですか」との声ようやく聞こゆ
 ◇ 表からは見えない側溝の底居(そこい)から私は叫ぶ「救急車を」と
 ◇ 配達員は救急隊の指示受けて北窓(きたまど)開けてわれを見つける
 ◇ 開けられた窓からいく度もジャスミンの悲しげに鳴く声の漏れくる
 ◇ 激痛に呻きながらも懸命に吾はジャスミンに声かけてやる
 ◇ 「ジャスミンごめんなさいねごめんなさいもう大丈夫よ」と声をかぎりに
 ◇ 激痛に身動きできぬわが耳にサイレンの音近づいてくる
 ◇ 力強い足音立てて東西から救急隊員近づいて来る
 ◇ 激痛に絶叫し続けるわれを一気に吊り上げ担架へ移す
 ◇ 残してゆくジャスミンのことが心配で排泄のことなど隣人に頼む
 ◇ 全身が動かぬように固定され担架のままで救急車内へ
 ◇ 「全盲の怪我人ですが」と隊員は告げつつ受け入れ病院探す
 ◇ 幾つかの病院当るも「家族の承認必要」と都度拒まれる
 ◇ 盲目のわれの入院拒まれて発車の出来ぬままに時経つ
 ◇ ようやくにわれの入院先決まり午後二時過ぎに佐久病院に
 ◇ 病院に着けば医療者駆け寄りてわれを囲みて処置を始める
 ◇ 駆け付けた夫の声のするほうへ腕を伸ばして「ごめんね」と言う
 ◇ 困惑の声にて夫は「ああ」と言いわが手を握り返してくるる
 ◇ 病棟の廊下のわずかな段差にも悲鳴上げつつ運ばれて行く
 ◇ 何本もの管につながれ病室にようやく落ち着くもう夕方か
 ◇ 昨日まで共に暮らしたジャスミンと別れて今日は病床に臥す
 ◇ 「人の世の一寸先は闇」と言う文字そのままにわれの身は今
◆ 4月2日(金曜日)大腿頸部骨折に加えて、腰椎の圧迫骨折が明らかになる。
アイメイト協会の訓練士さんがジャスミンを夫の職場に迎えにきてくださる。
 ◇ 担当医はX線写真見直してわれに腰椎の骨折告げる
 ◇ 腰椎の骨折わかり口々に「痛かったでしょう」と看護師さんは
 ◇ ジャスミンにゆっくり歩く訓練をしてもらおうと心を決める
 ◇ 「ジャスミンは俺が看るよ」という夫を「また歩きたいから」とようやくに説

 ◇ 訓練所に実情説けば訓練士「すぐ行きます」と東京から来る
 ◇ 訓練所にジャスミンを預けるもう一度一緒に街を歩く日のため
 ◇ 「ジャスミンごめんねきっと迎えにゆくから」と心の中で詫びて送りぬ
 ◇ 盲導犬と風を感じて歩く日を取り戻したい何としてでも
 ◇ 「ジャスミンは振り返りもせず訓練所の車に乗った」と夫から聞く
 ◇ 「お父さん淋しいでしょう」とわれ言えば「うん」と頷く淋し気な声
◆ 4月4日(日曜日)入院6日目。 
 ◇ 盲導犬の不在忘れて物音にわれを呼ぶかと耳を澄ませる
 ◇ 訓練所のケージの中でジャスミンは何を思うやわれと離れて
◆ 4月26日(月曜日) 佐久医療センターを退院。鹿教湯病院へ転院。
 ◇ 四週間お世話になりし病院を今朝は発つべく荷物まとめる
 ◇ 見送りの看護師さんの手を取れば感謝の思い胸にあふるる
 ◇ 車椅子を夫に押してもらいつつ冷たき風を深呼吸する
 ◇ 乗用車に乗れるだろうかと不安げに夫は移乗の様子見守る
 ◇ 医療スタッフが次々われに挨拶を活気あふれる鹿教湯病院
 ◇ 来るたびに名前と職名名乗るよう看護師さんは貼り紙を書く
 ◇ ウォシュレットには点字サインの代わりにと立体シールを付けてもらいぬ
 ◇ リハビリの責任者は言う「盲導犬と歩けるようにするつもりです」と
 ◇ 顔挙げて「うれしいです」と涙拭き歩行器押してまた歩き出す
◆ 5月24日(月曜日) リハビリのチーフの寒川(さむかわ)さんに家のどこに手
すりをつけたら良いかなどを相談する。
 ◇ 盲導犬と歩行出来れば家内(いえない)に手すりは不要とチーフ言い切る
 ◇ 盲導犬との歩行可能になるまでに原状回復目指すリハビリ
 ◇ 病棟の廊下の隅に蛙いて田に戻らんと跳ねる夢見る
◆ 6月1日(火曜日) PTの宮下さんは、アイメイト協会の訓練士の原さんと電話で
話してくださる。OTの百瀬さんはハーネスを持ってハンドルワークをはじめて下さる

 ◇ リハビリのためにPT盲導犬協会の訓練士と話し合いする
 ◇ ジャスミンとの歩行見るため訓練士退院すれば家に来るという
 ◇ OTは盲導犬用のハーネスを腰の高さにわが前歩く
 ◇ 盲導犬の動きを真似てOTはわれを導くハンドルワーク
 ◇ 盲導犬の代わりをなしてOTはわれを導くテンポよろしく
 ◇ 盲導犬の代わりになりてエレベーターボタン教えんとして鼻付ける人
 ◇ どこまでも歩いて行ける心地なりこのハーネスに引かれて行けば
◆ 7月9日(金曜日) 週末がお休みのスタッフが次々お別れに来てくださる。
 ◇ 退院を祝いスタッフそれぞれにわれの病室訪ねてくるる
 ◇ スタッフは頭(ず)を下げながらそれぞれに別れの言葉を述べては去りぬ
 ◇ 「こちらこそ大変お世話になりました」吾も深々と頭を下げる
 ◇何をするかと尋ねられ「ささやかな人生のつづきを」と笑む
◆ 7月13日(火曜日) ジャスミンが帰ってきた。 
 ◇ 「ジャスミンが帰ってくるな」と声あげて笑いながらに夫は仕事へ
 ◇ ジャスミンを載せた車が坂道を今にくるかと背伸びして待つ
 ◇ 膝をつき両手を広げ愛犬を百日ぶりにしっかりと抱く
 ◇ 腕のなか飛び跳ねながら顔を舐め盲導犬は再会喜ぶ
 ◇ 「ジャスミンちゃん会えてうれしいありがとう」頬摺り寄せていく度も言う
 ◇ 盲導犬と歩きたいという目標がありて果たせた犬との再会
 ◇ リハビリを重ねて今日に夢叶い盲導犬にハーネス着ける
 ◇ 盲導犬は病後のわれを気遣いて振り向き振り向き公園までを
 ◇ ジャスミンはわれの左に寄り添いて訓練士乗る車見送る
 ◇ ジャスミンに手の指先を触れながら共に安堵の眠りに入る
連載/本ほどステキなものはない! ?
          『臨床の砦』          長野市 池田 純
◆夏川草介 著 小学館 2021年4月
 今回は、新型コロナウイルスに立ち向かう医師と看護師の闘いを描いたドキュメン
ト小説。著者は、「神様のカルテ」がベストセラーになった、信州大学出身の医師。
 安曇野市を想像させる地方都市では、新型コロナウイルスの患者を受け入れる病院
が二つしかない。そのうちの一つである信濃山病院に勤める敷島は、消化器内科の専
門医だが、救急の患者が激増していく中で、専門ではない患者と深く関わることにな
る。
 10人に満たない医師の中でも、感染症に対するスタンスは各人各様で、病院として
の統一した対応もままならない。
 そして、病院の看護師がついに感染してしまう。感染した患者の対応だけではなく
、院内の感染予防、感染後の対応に追われる医師の苦闘が刻々と流れる時間に合わせ
て描かれる。
 敷島も、感染した患者の家族と接したため「濃厚接触者」と認定され、自宅に入る
こともできず、自動車の中での生活をすることになる。
 この過程で、陽性・陰性の診断の困難さ、「濃厚接触者」の定義があいまいな基準
のまま一人歩きしていくことが活写されている。
 しかし、信濃山病院の奮闘もあって、患者を受け入れる病院が二つしかなかった市
内でも、他の病院で感染者の受け入れをするようになっていく。この点については、
東京都で新規感染者が5000人を超えるような状況になっても、患者の受け入れをする
病院は少なく、そのために「在宅療養」の下に放置され、突然死していく患者の多か
ったことはまだ記憶に新しいところだ。
 まさに、長野県内の都市でも医療崩壊は起きていたことを著者は訴えたかったのだ

 現在のところ、新規感染者はかなり少なくなり、落ち着きつつある新型コロナウイ
ルスだが、アメリカやイギリスを見ると、とてもこのまま収束に向かうとは考えられ
ない。今回の新型コロナウイルスの感染の広がりは、日本における医療の抱える問題
を白日の下にさらすことになってしまったのだが・・・。
デビュー           『サラン』        飯田市 原 哲夫
7月1日から新しいパートナーと歩き始めました。私にとっては5頭目になります。
 名前はサラン(Saran)といい、語源は韓国語だそうです。ラブラドル系雑種F3のブ
ラックで女の子です。年齢は10月現在2歳2か月になり、体重は21?です。
 共同訓練は6月21日から実質8日間を2期に分けて行われました。コロナ感染が
急激に広がる時期と重なったため全て飯田市の自宅と市街地を中心に実施してもらい
ました。
 そして7月1日から単独というのか私とサランの一人一匹歩きが始まりました。
◆性格は?行儀は?
 性格はおおらかでマイペースのように見えます。やや横着なところもあります。私
が大きな声で名前を呼んでも急いで走ってくることはまずありません。とことこと「
何だか知らないが呼んでいるようだから行ってやろうか」とでもいうようにやって来
ます。
 家の中での行儀はよいと思います。ゴミ箱に興味を示すようなことはありません。
◆歩行について
 まだまだ気が抜けません。間違えやすい分岐点や曲がり角では私自身も慎重に確か
めつつ声をかけるようにしています。確実性は85パーセントぐらいで残りの15パ
ーセントは私がカバーしています。
 始めのうちはちょっと体高が低く小ささが気になりましたが、スタミナもあり徐々
にいい感じで歩けるようになっていると思います。
◆良い点、すばらしい点
 トイレに時間がかからず大変スムーズにしてくれて助かります。特に1日2回のウ
ンチはベルトと袋を付ければ平均3分以内にします。雨天時は軒先の限られた場所で
もできます。これまで4頭のワンちゃんと付き合いましたがこんな子は初めてです。
◆美人系か可愛い系か
 両方を兼ね備えているようです。じっと見つめられると誰もが参ってしまうようで
す。カメラ目線もしっかり保てます。
 これって親ばかなんですかね?
写真:ピンクのタンクトップを着たサラン
レクイエム
     『ディライトを偲んで』          松本市 福崎直昭
訓練所より10月20日にディライトがなくなったと連絡をいただきました。今年の中
村さんからの年賀状では余り距離は歩けなくなったけど元気でやっていると聞いてい
たので後2年くらいは元気でいてもらえれば良いと思っていましたが15歳半でなくな
ってしまいました。
 ディライトが引退後は飯田市の中村さんの所でお世話になり余生をゆっくり過ごせ
てディライトも幸せだったと思います。
 ディライトが引退後九月にわたしが脳梗塞になってしまい今は家の中は杖をついて
歩いていますが外出した時には車椅子でヘルパーさんと動いているので盲導犬と歩い
ていたのが懐かしいです。リハビリをがんばりまた外を自由に歩きたいです。
 ディライトとの思い出はたくさんあります。行きつけの居酒屋にディライトと行っ
た時に足下でくちゃくちゃと何か食べている音がしたので、わたしが何か落としたか
と思い口の中に手を入れて確認していたらマスターがあげていた事がわかり、マスタ
ーに食べ物は勝手にあげないでほしいことを伝えましたが理解してもらえず、それか
らはその店に行く時には連れて行かなくなりました。入店拒否も困りますが動物好き
も理解してもらえないこともあることも経験しました。
 それからもう一度は、別の店に行った時に犬の苦手な店員だったらしく断られまし
たが、おとなしくしている旨を伝えて入れてもらいました。帰る時には盲導犬がこん
なに大人しいんですねと理解してもらい店の外まで送り出してくれました。
 まだまだディライトの思い出は沢山ありますが、切りが無いので。最後にディライ
ト本当にありがとう。
       『あんず、お疲れ様・ありがとう!』     喬木村  清水純子
 去る8月1日、喬木村の清水さんが飼育されていた引退犬の『あんず』が亡くなり
ました。清水さんから会報に寄せられたお手紙をそのまま掲載します。
 南信州は市田柿の季節を迎えております。東京オリンピックの最中、あんず(旧名
:バイラル(♀)が亡くなって3ヶ月が過ぎました。
 2年前の夏に亡くなったバルと共に、盲導犬から看板犬へと転職し、我がいちご農
園を盛り上げてくれておりました。
 あんずは早期退職で、うちに来て10年、バル(♀)は定年退職後、17歳を過ぎるま
で の6年以上と、たくさんの時間と笑顔で清水家に幸せな日々を与えてくれました

 2頭は、ハウスの中で追っかけっこしたり、朝起きるとまず私の布団の上でプロレ
スごっこを繰り広げたりと、生真面目なあんずも明るくマイペースなバルにつられて
、我が家のネコ達のエサを盗み食いするのも覚えました(笑)
 亡くなってからの1年間は特に、「あ〜去年の今頃はあ〜だったな〜」なんて思い
出しますよね。今、ハウスのいちごが少しずつ赤くなり始め、毎年誰よりも先にいち
ごの出来を確かめてくれていた看板犬がいないことに寂しさを感じております。
 あんずは2021年8月1日に、バルは2019年7月31日に、忘れっぽい私に命日を忘れら
れないように1日違いなんでしょうか…。
 これから年末にかけて、テレビでは1年を振り返り、嵐のカイトが流れる機会が増
えるでしょう。その度に、あんずとの最期の時間を思い出して、ほろっときてしまい
そうです。
 最後になりましたが、バルとあんずへの長きにわたるご支援、また、亡くなった折
にはお気遣いいただきありがとうございました。
 寒さ厳しき信州、皆様、お身体にどうか気をつけてお過ごしくださいませ。
写真:あんずとバルの写真
『ハーネス基金からのお知らせ』
 11月14日の運営委員会で、ハーネス基金「疾病治療費助成」申し込み手続きの一部
変更が決まりました。令和3年分から実施します。できるだけ申し込み時の手続きを
簡略化し、利用し易くしたいという願いからです。変更の内容は以下の通りです。
 ご不明な点は事務局またはハーネス基金チーム(原:090-5527-7931)までお問合せ下
さい。
◆疾病治療費助成申し込みの際の変更点
1 これまでの「長野県ハーネスの会 疾病治療費報告」の記載内容の変更点
?獣医師による診断書(表2)は必要ありません。
?獣医師の署名と押印は必要ありません。
 ※これまでは報告書は獣医師に依頼して作成してもらう形でしたが、変更後は原則
として盲導犬使用者または引退犬飼育者が作成することになります。
2 申請方法の変更点
?電子メイルを利用して必要事項を記入して申し込むことができます。
?これまでの「長野県ハーネスの会 疾病治療費報告」の用紙を事務局から取り寄せ
て必要部分だけ記入して郵送もできます。
?A4用紙に必要事項を記入して事務局へ郵送することもできます。
3 添付資料として、必ず領収書または診療明細書を添付して下さい。
?電子メイルで申し込む場合は添付資料だけ事務局に郵送して下さい。
?郵送で申し込む場合は添付資料を同封して下さい。
?疾病名または処置内容が分かるような簡単な添え書きをお願いします。
※領収書または診療明細書にメモ書き程度で構いません。
※「補助犬健康手帳」に記載があればそのコピーでも構いません。
4 疾病治療費助成額の算出と振り込みについて
?動物病院の領収書または診療明細書の金額を合計してその半額を算出します。
?運営委員会の承認を得て会計係が銀行口座に振り込みます。
5 新しい「長野県ハーネスの会 疾病治療費報告書(助成申請書)」の記載事項
 ◆     令和○年 疾病治療費助成申請書
(1)申請者について
 ?申請年月日
 ?氏名
 ?住所
 ?携帯番号
(2)盲導犬または引退犬について
 ?犬の名前
 ?盲導犬か引退犬か
 ?性別 ♂/♀
 ?年齢
(3)動物病院について ※複数可
 ?動物病院名
 ?所在地 市・町・村
(4)1年間に支払った疾病治療費の総額
※複数の動物病院に通院した場合はその合計額を記入してください。
※助成金額は添付された診療明細書等で算出します。
(5)振込先金融機関について
 ?銀行名/支店名
 ?口座記号/番号
 ?名義人の名前
◆ 2021年(令和3年) 疾病治療費助成の申し込みについて
 令和3年1月1日から12月31日までに動物病院で支払った盲導犬および引退犬
の医療費(疾病治療費)の助成を希望される使用者・飼育者は手続きを進めて下さい

【申請要項】
?対象期間 令和3年1月1日から12月31日
?申し込みの際の必要書類
 ・「疾病治療費助成申請書」に必要事項を記入して事務局に郵送またはメイルで送
  る。
 ・ 動物病院の発行する1年間の領収書または診療明細計算書を同封する。
?締め切り 令和4年1月20日(木)
?送り先 事務局
?備考: ご不明な点は事務局または担当にお問合せ下さい。
  また、申し込みされた方に担当から電話でお聴きする場合もあります。
                      (ハーネス基金チーム 原 哲夫)
事務局から
              『お知らせとお願い
◆盲導犬ユーザーおよび引退犬の近況報告
・飯田市の原さんがサランと歩き始めました。
・喬木村の清水さんが飼育していた引退犬あんずが、8月に永眠しました。
・松本市の福崎さんのパートナーだった、ディライトが10月に永眠しました。
◆会費納入のお願い
 ユーザー会員・引退犬飼育会員の皆さまで、令和3年度分の会費の納入がお済みで
ない方は、お忙しいところ恐れ入りますが早急にお振込をお願い致します。振込用紙
がお手元に無い方がいらっしゃいましたらご連絡をいただければ送付いたします。
◆会員登録の情報の確認のお願い
 住所や電話番号・メールアドレスなどの変更がありましたら、事務局までご連絡く
ださい。また、盲導犬ユーザーと引退犬ボランティアの皆様は、パートナーや引退犬
の状況に変化がありましたら(代替え・死亡など)、必ず事務局までご連絡いただき
ますようお願いいたします。
◆事務局連絡先
 メール 
 電話 026-214-0802(会長池田直通)
◆オンライン会議について
 総会の中で、ズームでの会議を開催した際の利用料を会より支出する事となりまし
たが、会の講座から引き落とすための手続が煩雑に加え、現金で振り込むのも手間が
掛かるので池田会長のアカウントを使って開催しその月の利用料を会長に支払う形で
支出する事としました。よろしくお願い致します。    
《編集後記》
 70歳は老化の分かれ道だそうだ。60代ならそれほど意識して運動しなくてもそれま
での貯金で筋力は維持できる。でも、70代は意識的に運動しないと筋肉はみるみる落
ちるらしい。とはいえ、筋トレはしんどいなあと思っていたら、「筋トレウォーキン
グ」というのがあるのを知った。3分速歩、3分ゆっくりを、それぞれ5回繰り返し
て30分。これを週3回程度。「これならできる!」と思って1回だけトライした。後
2年で習慣づけができるかが問題。
 来年もよろしくお願いします!  (片山)

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